Dear Great Hackers

  1. Qiita
  1. インタビュー

なぜ、広木大地さんはエンジニア採用で「透明性、キャリア開発、技術投資」が必要だと語るのか?

エンジニア採用がスムーズな企業と難航している企業の違いとは何か。多くの企業にとって興味を惹く話題であり、永遠の命題でもある。

派手派手しい採用広報をする企業もあれば、採用広報代行会社に発注しているケースも珍しくない。そうした採用市場において、もっとも重要な考え方を広木大地さんに聞いてみた。

エンジニア採用成功の鍵は大きく3つ。「企業としての透明性」、「キャリア形成への支援」、「技術投資」だと広木さんは語る。言葉にしてみれば当たり前のようなことではあるが、なかなか手が回っていないことも事実としてあると思う。

改めて、この3つがなぜ重要なのか。この点を含めて、広木さんは会社の透明性の大切さを話しはじめた。

「オープンにできないって、本当にテック企業なんですか?」
真実の愛を伝えるために必要なこと
「助けて欲しい」草創期の採用スタンスが肝
透明性、キャリア、開発環境への投資
プロジェクト炎上の話を掲載してみる
エンジニアを幸せにする

「オープンにできないって、本当にテック企業なんですか?」

菅野久樹(以下、菅野):最近の採用市況や企業としての変化について広木さんはどうお考えですか?

広木大地さん(以下、広木):今まではエージェント経由や訪問時に見せてもらうことの多かった会社紹介の資料などをインターネットに公開する動きが多くなってきましたね。
先日も採用系のイベントで、今後は、オンボーディング資料(入社後に業務をしていくために必要な研修や準備などのドキュメント)を公開するのが流行るのではないか?という話題が出ました。そのイベントをキッカケにオンボーディング資料を公開する会社が出てきましたし。

菅野:会社の中に隠した方がベターだった時代が終わってきていると。

広木:そうですね。守るべき情報は守るべきですが、ちょっと良くないかも?と思われるくらいの情報はどんどん公開してしまったほうが、求職者の立場からしたら、会社の環境の良い面もよりリアルに感じることができますよね。

ダサいところも見せていく感じがあったほうが本物っぽさが出るというか。例えば、「Qiita Jobs」と「Qiita Team」を連携させてみたらどうか?と前回お話しましたけど、その時、菅野さんから「その機能は考えていなかった」って言葉が出ましたよね。

そこでかっこつけて「社内で検討していました」と言ったり、話を隠すためにその部分をまるまる編集して削ることもできると思うんですよ。

かつて「Qiita:Career」がありましたよね?という話題もそう。こういう情報がこの記事に載って発信されると、「Qiita Jobs」を作っているチームの透明性の高さがリアルに感じられるのではと思います。

菅野:確かに。そうすることで社内のリアルな雰囲気や人となりが伝わっていく感じがします。そういえば、数年前から新卒研修の資料を公開する企業も増えてきていますよね。

広木:僕自身、2012年くらいからの取り組みとして、ミクシィでやっていた新人研修の内容を公開していきました。

「Qiita」で記事を書き始めたのも、研修内容の公開がきっかけです。

それを前後して、業界的に内部研修資料を外に出していくことは、トレンドになっていきました。逆に公開していない会社は「テック企業なのか?」って思われてしまうくらいには広がっていきました。

物事を隠してしまうよりも、オープンにすることで世界全体をよくしていって、そこから自分自身もメリットを得る。このエンジニアリングの文化がより広がっていくようなサービスになると「Qiita Jobs」はエッジの立ったサービスになっていくと思うんですよ。

エンジニアカルチャーのど真ん中にいるからできる採用サービスがある。ここに注目が集まってくると、「エンジニア採用だったら『Qiita Jobs』」だって文化が出来上がっていくと思いますね。

菅野:そうですね。リアルではなく、表面的というか、言葉は悪いですけど嘘をついた企業が採用に成功するサービスにはしたくないですね。そうなると、「Qiita Jobs」を生み出した当初の目的とも大きく乖離しますし。

リアルに自分たちのチームの情報を伝える。その結果、採用が成功するという姿になるべきだと思います。

リアルな情報が並ぶ場所。それが令和時代のエンジニア採用サービスである

真実の愛を伝えるために必要なこと

菅野:先程の話を聞いて思ったのですが、なぜここまで企業の透明性が求められるようになったのでしょうか。

広木:嘘を付く人がたくさんいたと学んだからだと思いますね。思ったことをそのまま伝えていたら、それはリアルじゃないですか。

ただ、ファクトが見えない、カッコつけているコミュニケーションが増えた印象があります。実際、優秀なエンジニアの方から見れば、そういうコミュニケーションに対する違和感が凄いんですよ。

菅野:なるほど。違和感について詳しくお聞きしたいです。

広木:現在の採用市況において、優秀なエンジニアは絶世の美女のようなものなので。つまり、かぐや姫のようにいろんな男性から求愛されているものの、どれが真実の愛なのか分からなくなっているんですよ。

菅野:確かに。イベントやSNSなどいろいろなところから声が掛かるケースは多いですね。

広木:では、どんなことであれば真実味を持った愛情として伝わるのか。そこって言葉が流暢であるかなんて関係ないですよね。

たくさんの男性(企業)から求愛されていると考えると、その人から見ると表面上の言葉ではなく、リアリティ=真実味を求めるようになりますよね。

たとえば、「Amazonプライム・ビデオ」で「バチェラー・ジャパン」が配信されているじゃないですか。これは、リアルなものを見つけていく過程がコンテンツとしての面白さだと思っていて。

エンジニア採用が難しい、難しくないという議論がありますが、実は二極化していて、採用できない企業は口説き方やアプローチを変えてみることが大切だと思います。カッコつけて、マウントを取るではなく、素朴であっても真実味のある誠実さを伝えることが重要なんです。

不器用だっていいじゃないですか。誠実に理念に対して向かおうとしている姿勢は伝わるものです。

「Qiita Jobs」がこの点に向かおうとしていれば嬉しいですね。

菅野:バチェラーって単語が出るとは思いませんでした(笑)。ただ、言い得て妙というか。やりたいことはバチェラーに近いことなのかもしれませんね。

優秀なエンジニアを採用したいという企業って、結局は選んでもらわなければいけない。では、選ばれるために何が必要なのか。それは、誠実さと真実を伝えることなんですよ、と。

採用担当者は真実の愛をシェイクスピアで学んでみてはどうだろう?

「助けて欲しい」草創期の採用スタンスが肝

菅野:広木さんは心理的安全性をテーマに「Qiita」で記事を公開されていましたよね。これもリアリティや透明性に通じるお話でした。実は今日、転職をテーマに心理的安全性のお話をお聞きしたいと思っていたんです。

広木:心理的安全性に必要なことは、メンバーやこれからチームに入る方へ自分をいかにさらけ出せているかということ。つまり、弱みを見せられるかです。

「僕はこんな失敗をしたけれど、今はこんな感じで頑張っていますよ」だったり、「こんな僕だけど、あなたのことを知りたいんですよ」だったり。

己を開示することで相手のことを理解しようとする。そうすることで、相手の言葉を引き出すことができるのだと思います。ただ、転職というお話の場合、期待値調整が上手く行っていなければ、入社した後にギャップが生じますよね。

最悪の場合、入社して3ヶ月待たずして疑心暗鬼になるケースもあると思います。

これは「Qiita Jobs」の使い方の話になるかもしれませんが、チーム側が困っていることや弱いところの情報があるといいのかなって。

そうすることで、入社後のエンプロイー・エクスペリエンスが良くなったりするのではないかと。人と人が弱さを共有しあえる。ここが大切なんです。

菅野:なるほど。

広木:後は、人って「助けて欲しい」という言葉には真摯に対応できたりするものなんですよ。

菅野:確かに。困っている人から「助けて下さい」と言われれば、自然に身体が動きますね。

広木:なので、「こういうことが今チームの課題なので教えて欲しい、助けて欲しい」というアプローチの方がエンジニアには伝わると思うんです。

チームとのチャット機能は実装されているので、「Qiita Jobs」はこうやって使うものなんだって、サクセスパターンをユーザーにいかに浸透させていくのか。ここが課題であり、今後の伸ばすべきポイントだと思いますね。

菅野:スタートアップの初期は「助けて欲しい」というスタンスしかないにも関わらず、意外と優秀な方がチームに加わったりしますもんね。

広木:そういうことです。後は、僕の所感ですが今が「Qiita Jobs」の大切な時期だと思っていて。

だって、新しいサービスが立ち上がった時はトライアンドエラーを繰り返していくものじゃないですか。

そこで、これまでのエンジニア求人サービスとは別ものである。エンジニアが転職したい時に本当に欲しいリアルな情報が掲載されていて、チームと直接コンタクトも取れる。また、チームメンバーの「Qiita」アカウントもチームに紐付けられているから、技術的なレベル感も把握できる。

これって、Incrementsさんじゃなきゃできないことですよね。

菅野:ありがとうございます、本当におっしゃる通りだと僕も思います。ただ、チームひいては企業として、ブランディング的に弱みを見せたくないという側面があることも事実としてあると思います。この点はどうすれば変わっていくと思いますか?

広木:そうですね…。難しいと思いますよ。既存のメディアでもやっている企業さんは実際にはじめていますし。出来ない企業は取り残されてしまっているというか。

個人的には二極化が激しい印象があります。エンジニアのコミュニティの中での見え方やアプローチの仕方を見ていても、採用できる企業と出来ない企業のギャップが生じていて。

むしろ矯正ギブス的に「『Qiita Jobs』にある項目は全部書かないと、今採用が上手くいっている企業に太刀打ち出来ないです」だったり、「項目も全部ONにしないと、採用競争のレースにも出場できていない状況です」みたいな。

うーん…。啓蒙性のあるプロダクトとして、最初は尖らせた方がいいのかもしれませんね。

採用する側から見れば、プロダクトがリリースしたばかりのタイミングが一番美味しいので。

だって、登録している方は新しいモノ好きだということがほぼ確定しているわけで。普段、求人サービスを使っていない人でも、「『Qiita』がこんなの出したんだ。試しに登録してみるか」みたいな思考をお持ちの方が多いのは当然ですよね。

菅野:転職顕在層だけではなく、潜在層も興味を持って登録することはあると思いますね。

広木:ですよね。これから「Qiita Jobs」がスケールしたタイミングと比べると、ライバルが圧倒的に少ないわけですから。企業の人事担当者はチャンスですし、Incrementsさんも今が頑張り時なんですよ。

このタイミングだからこそ、どんなことができるのか?こういった提案が双方で必要だと思いますね。

菅野:今、計画していることでもあるのですが、「Qiita Jobs」を有効活用している企業とパートナーシップを取りたいと思っています。「あなたも『Qiita Jobs』の開発に参加して下さい」くらいの取り組みができればと考えています。

助けて下さいと素直に言えること。課題を伝えられること。これが採用成功の鍵

Qiita Jobsはこちらから

透明性、キャリア、開発環境への投資

菅野:改めて広木さんにお聞きしたいのですが、今エンジニア採用が上手にできている企業とできていない企業、この違いについて改めてお聞かせ下さい。

広木:そうですね…。文化や職場環境の透明性、キャリアへの考え方、開発環境への投資。そして、この3つがきちんと発信できているか否かです。

これは、何らかの媒体を通じてではなく、勉強会やTwitterや様々な現場の情報発信から間接的にエンジニアのコミュニティを通じて伝わってくものなんです。

例えば、新聞の一面に「エンジニア募集中」と出稿したり、経営者がメディアに露出したからといって、技術系の採用広報が上手くいくかと言われればそうではない。

その人が(技術的や発信内容的に)信頼しているエンジニアや自分が見ている情報源。ここでその企業が取り組んでいることがリアルに伝われば、「あそこはこんなことまでやっているんだ」だったり、「ここまでチャレンジできるんだ」ということが自然な形で漏れ伝わっていきます。

実は、コミュニティからの発信や情報が最も大切なんです。ここで判断するケースが一番多いので。なぜなら、他のパブリックな場所で掲載されている情報は「作られた情報の可能性が高い」ので。

リアリティのある環境への投資がエンジニアへの信頼につながる。エンジニアコミュニティから発信された情報は“雪だるま式”なんですよ。

「透明性、キャリア、開発環境への投資」が浸透し、エンジニアから「いい企業らしい」という評判が広がっていく。これが次第に大きくなっていくイメージです。

菅野:結果的に、採用において強者が生まれていくということですね。

広木:“雪だるま式”は「Qiita」のOrganizationランキングを見てもそういった傾向があると思います。

そもそもデベロッパーエクスペリエンス自体が良くない場合、その状況が漏れ伝わってきてしまう。

言葉は悪いですけど、「そんな会社に誰がいくか!」って思われてもしょうがないですよね。今を大切にできていないわけので。

プロジェクト炎上の話を掲載してみる

菅野:まず、今の開発チームのデベロッパーエクスペリエンスを上げることが大切なんですね。

広木:そうなんです。後は、私「Qiita Jobs」には少し違和感があって。ちょっと不器用さを感じているんです。「Qiita」というあれだけエンジニアが集まるメディアが完成しているのであれば、ビジネスとしてグロースしようと思えばできるはずなんですよ。それこそ、もっと楽に数字を作る方法は山ほどあるはず。

ただ、もっとエンジニア環境が良くなることを模索している。そんな考えでサービスを作っている。ある種の泥臭さというか、生真面目さを感じるんですよね。なので、一個人としては素直に上手くいってほしいと思っていました。

菅野:なるほど。あんまり口外する話ではないのですが…。

広木:なんでしょう(笑)?

菅野:実は「Qiita Jobs」は結構なプロジェクトの炎上を経てようやくリリースにこぎつけたサービスなんです。開発がスケジュール通りに進まずに3度のリリース延期をしています。実は私は「Qiita Jobs」の2代目プロジェクトマネージャーで、3度めのリリース延期の後に前任者から引き継ぐ形で就任しました。マネージャー交代によるスケジュール修正や大きめの仕様変更があったり、チームメンバーの退職による体制変更あったりと、なかなかタフなプロジェクトでした。だいぶチームも落ち着いてきたところなので、これからスピード感を出していきたいなと。

広木:その情報は「Qiita Jobs」のQiita Jobs開発チーム紹介ページに公開しているんですか?そうした一連のストーリーが公開されていたら面白いですよね。

菅野:まだ書いていないですね。…そうですね。文字数が許す限り載せます。広木さんがこうして透明性の大切さを説いている中で、まず我々がやらないと他の企業さんが記載するはずないですからね。ここまでお話して載せなかったら広木さんから「透明性が低いチーム」って言われそうですし(笑)。

広木:ははは(笑)。そういえばこの取材の日程もリスケされましたね。

菅野:すいませんでした…!

広木:全然大丈夫ですよ(笑)。でも、この流れで「失敗を経験したチーム」のお話をしますね。

一度失敗したチームって非常に価値が高いんです。一度失敗して悔しい思いをしていると、「次は失敗しないようにしよう」って考えられる状態になっている。そのマインドで次のチャレンジができるわけじゃないですか。

それって、ゼロからチームビルディングするよりも遥かに効率的なんです。でも、そういった資源を会社は捨てがちだったりします。折角できあがったチームの中にしかない学びをなかったことにしてしまう。それくらいだったらいっその事、転職してチャレンジしようって気になっちゃいますよね。

「Qiita Jobs」をキッカケにもっとチームがフォーカスされていくと、面白くなると思いますよ。

透明性が高いチームで「Qiita Jobs」を運営していきたい。

エンジニアを幸せにする

広木:Incrementsさんがやろうとしていることって、本当にエンジニア採用や採用カルチャー作りに大切なことだと思うのですが、非常に大変そうですよね。

菅野:これを言ったら怒られる気がするので、僕自身の考えだと思って下さい。幸せにしたいのは企業じゃなくてエンジニアの人たちなんです。ここが優先順位として一番上に来ます。

「Qiita Jobs」を通じてエンジニアも企業も幸せになって欲しいですが、やっぱり一番はエンジニアなんです。

そのエンジニア個人がどうすれば最も幸せになれるか?この指針でサービスを伸ばしていきます。

先程、広木さんがデベロッパーエクスペリエンスのお話をしていましたが、そこから着手しなければいけない状況であれば、企業体質や開発環境への投資を改善していただいて、エンジニアが幸せに働ける会社へ変化していっていただけたらいいなって思います。

広木:企業の体質改善は弊社の方にご相談いただければ嬉しいですね(笑)。

菅野:その時はぜひ、ご相談させてください(笑)。ありがとうございました!

編集後記

「エンジニアが採用できない」僕自身、約10年前からこの議題について仕事を続けてきた。2019年5月時点で、エンジニアの求人倍率は6.3倍。完全な売り手市場の中で、企業は選ばれなくてはならない。受け身だった採用スタンスが攻めるスタンスにも変わった。ただし、一握りの企業だけが方法論を身に付け、多くの企業が頭を悩ましているままだった印象もある。
今回、広木さんの話を通じて、まず何をすべきなのか?という点が明確になった。エンジニア採用が難航している場合、まずやるべきは現状の課題を抽出し、分析すること。エンジニア採用ができないのは、採用担当だけの責任ではない。企業として選ばれる状況になっている必要があるのだ。そこが整ったのなら、後は比較的容易になる。
ちょっとダサい情報でもオープンにし、社内エンジニアのキャリアについてとことん向き合う。そして、新しい技術への着手やツールの導入を投資と見なして予算を確保する。ヒト・モノ・カネ。この言葉で一番最初に来るのがヒトである。逆説的に考えれば、ヒトが整えば後の2つは付いて来るのだ。これまで出してみなかったけど、「Qiita Jobs」では素直に書いてみようか。そんな言葉が社内で飛び交う日を心から楽しみにしている。

Qiita Jobsはこちらから

取材/文:川野優希
撮影:赤松洋太

関連記事