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ArmのIP使い放題サービス『Arm Flexible Access』がアップデート!より幅広く柔軟にSoC開発をサポート

SoC(System on a Chip)などで常に最先端を走る「Arm」。2019年には、半導体の設計資産IP(Intellectual Property)が「使い放題」になるサブスクリプション型のサービス『Arm Flexible Access』をスタートさせています。『Arm Flexible Access』は、世界のSoC開発を進化させるものとして大いに話題になったので記憶されている方も多いと思います。Qiita Zineでも過去2回にわたって紹介し反響がありました。

Armはその後、さらに市場状況や開発環境の変化に柔軟に対応して『Arm Flexible Access』を進化させ続けています。そこで、今回はAFAのアップデートや新たなアピールポイントについてArmのOEMセールスマネージャ・五月女哲夫氏に伺いました。

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プロフィール

五月女 哲夫(さおとめ てつお)
アーム株式会社
OEMセールスマネージャ
大学卒業後、計測器メーカーのR&Dで製品開発を担当。その後、アーム株式会社において、技術サポートを担当。現在はArmのIP 製品の販売を担当している。

臨機応変な半導体設計を可能にする『Arm Flexible Access』のアウトライン

――以前にも『Arm Flexible Access』について説明していただきましたが、あらためてサービスの概要をお教えください。

五月女: 『Arm Flexible Access』は半導体設計のサブスクリプションサービスです。従来、SoC(System On a Chip)開発では部品(IP:Intellectual Property)をライセンス契約で入手する必要がありますが、このライセンス契約は煩雑な面もあります。

従来のライセンス・モデルでは「前払い」式で膨大にあるIPの中から使用するものを選び、ライセンスを取得してから、SoCを作っていたため、事前にIPを決定するのが大変でした。なぜなら、ライセンス料の支払い後にIPが求めるものと違うものだったとわかった場合の対応が困難だったためです。ある意味、お金を払うまではIPに触れられないという課題がありました。

そこで登場したのがAFAでした。先に年会費を支払うと、様々なIPを自由にダウンロードして設計までできるようになります。そしてテープアウト(半導体の開発工程のマイルストーンの1つで、設計から製造に移る時点)の段階で製造ライセンス料を払う仕組みです。サブスクリプションサービスとイメージしていただければいいと思います。

AFAの年会費を払うと、IPが自由に手に入る上、ツールやモデルも利用可能になり、サポートやトレーニングを受けられるようになります。かかる費用は「年間アクセス料」「製品ライセンス料」「ロイヤルティ」と見えやすくなります。年間アクセス料は、年間のテープアウト数に制限のある「Entry」と制限がない「Standard」の2つのプログラムが設定されていました。どちらの契約プログラムでも利用できるIPは同じです。以前のインタビューでは、導入例として日本のメガチップスやヌヴォトン テクノロジージャパン、海外の「Raspberry Pi」でのSoC開発事例をご紹介しました。

さらに利用しやすくなった『Arm Flexible Access』の最新状況は?

――以前インタビューさせていただいた時点から『AFA』にどのようなアップデートがあったか教えてください。

五月女: AFAを利用中のパートナーは世界で100社を超え、日本でも着実に利用が広がっています。現在は、最新の開発形態に合わせる形で契約プログラムの種類が増え、IPについても同様に更新を行っています。

契約プログラムについては元々あった「Standard」「Entry」に「DesignStart」「Startups」、「Arm Academic Access」さらに「Arm Approved Design Partners(以下、AADP)」が追加され、お客さまのニーズに合わせて選択できるようになっています。システムインテグレーターやスマートデバイスの開発メーカーなどが新たにAFAを採用しています。

――今回の『AFA』アップデートのポイントはどのような点にありますか?

五月女: 今回拡充したのは、開発ツール「Arm Success Kits」です。SoCを作成する環境で「Hardware Success Kits」と「Software Success Kits」からなっています。「Software Success Kits」はコンパイラやエディタなどが同梱されたソフトウエアを作るためのツール群です。「Hardware Success Kits」は「Software Success Kits」に加えSoCを作るときに必要となる「Socrates」や「AmbaViz」といったツールをまとめたものです。

大きなポイントは「数」が増えたことです。ここでいう「数」というのは、同時に使える利用者の数のことです。言い換えるとソフトウエアを開発する環境が拡充されたのが今回のアップデートのポイントです。今までもツールとしてはインストールする数は無制限でしたが、コンパイルなどの同時利用数に制限がありました。今回のアップデートでは、この「数」が増えています。

ご存知のように、最近のソフトウエア開発は大規模になっており、数百人が一緒に開発を行うこともありますので、ツールをライセンスで管理をしています。このバランスで使い勝手も変わってくるのが難しいポイントだと感じています。

――プログラムがさらに増えたと伺いましたが、それぞれの違いを教えてください。

五月女: AFAのプログラムの種類が増えたことを先ほどお伝えしました。「Startups」や「Arm Academic Access」、「AADP」は毛色が違うので、基本となる3種類を表にまとめるとこのようになります。

「Standard」「Entry」「DesignStart」は以前に説明した内容と大きく変わりませんが、ソフトウエア開発ツールが「Arm Success Kits」に名称が変わり、この数が増えています。

料金に関しては、変わりはありません。昨年追加された年会費無料の「DesignStart」はアクセスできるIPが絞られ、サポートがありませんが、「Arm Success Kits」も「90日間評価版」を利用可能です。

「Startups」は「Arm Flexible Access for Startups」のことです。その名の通りスタートアップ企業向けの内容になっています。年間の売上高、上場状況などの条件を満たしたスタートアップ企業であればこのプログラムに申し込むことができ、年会費「0」で「Entry」相当の内容でAFAが利用できるようになります。スタートアップ企業の経済的な負担を軽くして、支援するのがこのプログラムの目的です。

このプログラムを利用して、アメリカのスタートアップ企業「Atomosic」は低消費電力SoCを開発して、超低消費電力や高効率コネクティビティ技術でビジネスをはじめています。

次に「AADP」です。これは「Arm Approved Design Partner」の略で「Arm 認定設計パートナー」を意味します。「SoCサービス」と「Designサービス」の2つが選択でき、大きな構成は先ほどの3つの基本バリエーション「Standard」「Entry」「DesignStart」とほぼ同じです。

ポイントは名称に「認定」とあるようにArmが審査することにあります。Arm IPを使った設計能力があるかを審査した後にプログラムのメンバーになることができます。また、監査が入ることが基本バリエーションとの違いです。メリットは料金の割引にくわえて、Armと共同でプロモーション、マーケティングができることにあります。

――利用形態に応じて、AFAに様々なプログラム形態を用意したのですね。

五月女: 一般的なAFAの適用形態は下の図のようになり、主なユーザーとして半導体会社を想定しています。半導体会社がAFAを取得しSoCを開発して、セットメーカーに提供するスタイルです。

このパターンの幅を広げたのが「Startups」と「AADP」です。まず、Startupsについてご紹介します。

スタートしたばかりの特に未上場の半導体会社において、AFAのライセンスを受けたくても年会費が負担になっていることがあります。「Startups」は、条件さえ満たせば年会費無料で利用できるようにし、ビジネスの発展を支援する目的のプログラムです。

「AADP」のDesignサービスでは、元の図に設計委託会社が加わる形になります。

半導体会社がSoC開発を行いますが、設計の一部を外部会社に出すことがあります。この設計を請け負うのが設計委託会社、デザインハウス会社です。世界には多くの設計委託会社が存在しています。

そういった会社にAFAを利用していただくために用意したのが「AADP」のDesignサービスです。つまり、委託を受けて設計だけをする会社向けになっています。

設計委託会社が「AADP」Designサービスに加入するメリットは、事前に多くのIPにアクセスでき、さらにArm認定となることで仕事が請けやすくなることです。

――日本でのAFAのAADP使用事例に、NSW(日本システムウエア株式会社)がありますが、どのようにAFAを活用しているのでしょうか?

五月女: NSWさまは、開発全体の一部を委託されることが多いためAADPのDesignサービスを利用されています。

他に「AADP」にはSoCサービスも存在しています。先ほどの図でいう半導体会社の部分も設計委託会社がカバーするケースです。

「絵」としてはこのようになります。このような半導体会社の領域まで担う設計委託会社を業界用語では「ターンキー会社」と呼んでいます。ターンキー(turn key)とは、鍵をひねると戸が開くように簡単に仕事が依頼できるという意味で、「その企業に依頼するだけで全て済んでしまう」ということです。ターンキー型の設計会社に「こんなSoCがほしい」と依頼するだけでSoCが出来上がってくるので、セットメーカーから見て「簡単だ」ということでこう呼ばれるようになったようです。

こういった設計委託会社のために用意したのが「AADP」のSoCサービスです。

こういった形で、多様なシチュエーションで利用できるようにAFAのバリエーションを増やしています。

――ライセンスの形態を多様にしているのは、スタートアップ支援や「新しいアイデアを形にする」ことが背景にあるからでしょうか?

五月女: 現在、Armが用意しているバリエーションで全ての開発形態をカバーしきれてはいません。例えば、自動車業界で見ると、電子装置は電装部品メーカーが開発し、その頂点に自動車会社がいる構造になっていますが、キーデバイスになりつつある電装品は様々な形で開発が進められるようになってきています。このような形でモノづくりがされているので、全てのパターンをカバーするのは難しくなってきているのです。

昔からある設計委託会社はAADPのDesignサービスでカバーできましたが、市場ごとに特徴的な開発形態をカバーしていくには今後も様々な可能性を検討する必要があると思っています。

――今後、新しいプログラムを用意する予定はありますか?

五月女: 例えば、電気自動車の流れを見ると、電気メーカーが自動車まで作る動きもあります。電気メーカーはSoCを作るのはお手の物ですから、半導体会社を利用しないで作ることもありえます。その場合、電気メーカーがArmからライセンスを取得して使用する可能性は高いと考えており、今後もAFAが使われる場面が減ることはないと思っています。

先ほど話した自動車の例でも、SoCが必要になるユースケースは一方的に増え続けている状況です。これは新しいモデルには常に新しい機能が求められるからです。増える方向であるなら、そのたびにSoCが利用されますから、利用場面は増え続けると予測しています。

――今後、2年~3年でさらに契約者数は増えていくことになりそうですね。

五月女: そうですね。全ての会社が自分でSoCを作るかというと、すぐにはそうならないとは思いますが、何らかの形でSoCの開発に携わることは増えていくと思います。

自動車のECU/MCUなど、AFAの活用場面が広がっていく

――リリースから時間が経ち、AFAが活用される場面も広がりを見せているようですが、その事例を教えてください。

五月女: もちろん、あらゆるところに入ってもらいたいのですが、代表例は自動車ですね。次の図をご覧ください。

今の自動車はとても賢くなっています。賢いということは、そこにSoCが入っているということです。自動車のECU「Electronics Control Unit」、つまり制御装置が自動車1台に平均30個近く搭載されています。元々は「Engine Control Unit」の略でしたが、適用する範囲が広がってElectronicsになっています。さらにMCU(Micro Controller Unit)といったコントローラーは100個以上使われているのです。

皆さんは130~150ほどのプロセッサに囲まれて自動車を運転していることになります。バックミラー、サイドミラーの自動制御やドアウインドウの上げ下げからカーナビまであらゆるところにECU、MCUが使われているのです。自動車の製造コストに電子回路が占める割合は増加しています。

自動車会社および自動車部品会社は、ここで使われるSoCを開発する必要があります。この先、自動運転技術の高度化などによってさらにSoCが使われる場面が増えます。

このような自動車に必要とされるECUやMCUは、開発のかなり多くの部分をAFAでカバーすることができます。パワートレイン系を含めて、現在、相当数の試作が行われているところです。これらの技術は他にも産業ロボットなど産業機器のコントローラーなどでも活用されています。

最近では産業ロボットだけではなく、AMR(Autonomous Mobile Robot;自律走行搬送ロボット)などの開発にもAFAが活用されています。工場全体を高度化する「Industry 4.0 / IIOT」などもAFAでカバーできるのではないかと考えています。

『Arm Flexible Access』を展開していきたい企業像は?

――プログラムが増え、様々な契約形態を用意したことで、今後、AFAを導入してほしい企業像をどのようにイメージされていますか?

五月女: 以前から半導体を作っている会社というよりも、「こんなSoCがあったら、こんなサービスができる」といったアイデアがあってもどうやったらいいかわからない企業や、自社でASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)を開発したいと考えている企業ですね。特にこだわりがあるわけではありません。前回のインタビューでは、回転寿司等で皿にSoCを埋め込む例を話しましたが、そのレストラン業界をはじめ、先ほどの自動車関連、産業機器、他にもIoT、AI、スマートホームや機器のスマート化が予測されているヘルスケア領域などが想定できると思います。

新しいサービスのアイデアや可能性があっても、SoCがなくて実現できなかった領域にいる多くの企業にAFAを活用してもらい、今までできなかったことを実現してほしいと考えています。

――今では当たり前になったドローンでもArmの技術が使われていますね。

五月女: 10数年前までドローンはありませんでしたが、フランスのスタートアップがドローンを作って、それが爆発的に増えました。テレビのドキュメンタリー番組の撮影などでは本当に多用されています。誰かがドローンを発明しなければ、あのマーケットは存在しなかったわけですが、SoCを活用して独自に急激な進化をして、今では握りこぶし1つの大きさにまで小型化されています。

もうしばらくすると、ドローンで物や人を運んだりするようになると思います。多くのドローンでArm技術が使われています。このようなモノを発明するためにAFAという道具が必要とされていくと思っています。

――最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

五月女: AFAなどを利用することで、SoCを活用してあらゆるものに知性を組み込んでいける時代になりました。演算能力が上がったことで、今では様々なことを簡単に実現できるようになっています。昔なら、やろうと思ってもできなかったことができるようになりました。自動車の自動運転などがまさにそれに該当すると思います。以前の技術で今の自動運転技術を実現しようと思ったら、トラックの荷台が埋まるほどの機器が必要でしたが、それが現在では驚くほど小さくなりました。
そのため、多くのシーンでSoCを活用することができ、さらにAIを活用することで、ある意味、人間に近い高度な知性による判断ができる場面も増えました。そして、ネットにつなぐことで常に最新かつ膨大なデータを利用、共有できます。こういったことが当たり前にできるようになった今だからこそ実現できる新しいサービスや製品をぜひ作っていってほしいと思います。そのために『Arm Flexible Access』を活用していただけたら、うれしいですね。

編集後記

IoTを活用したデジタルトランスフォーメーションの時代において「SoCなし」はありえない話です。SoCは社会の根幹をなす最重要技術の一つといってよいと思います。
Arm Flexible Access(AFA)は、そんなSoC開発を発展させるものとして注目を集めました。今回、あらたな契約形態が増えたことで、IT・IoT業界外の企業でもアイデアや企画があればSoC開発に乗り出せる可能性が増えたことになります。SoCを有効活用したデジタルデバイスを開発して、ビジネスを加速させたいと考えている企業にも夢が広がった形です。
五月女氏にお話を伺って、あらためてAFAは「未来づくり」をするサービスであると強く感じました。

取材/文:神田 富士晴


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